夕 鶴



子供たちの歌う童歌が聞こえてきます。



おばさん、唄うてけれ!遊んでけれ!
子供たちの声も聞こえます。


つうは いま ………





助けてくれた与ひょうの為に自分の羽を抜いて
見事な千羽織りの反物を織り上げます。




あんたは矢を抜いて私の命を救ってくれた。 
それがうれしかったのであんたのところに来た。

そしてあの布を織ってあげた。
あんたは喜んでくれたから、無理して何枚も織ってあげた。


あんたは私から離れて、別の世界の人になっていくよう…


惣どと運ずに丸め込まれた与ひょうは欲に目がくらみ…
つうは、布を織ることを強要され…




布は織るけど、織っている間は決して覗かないで…


つうは身を細めて、1本1本羽を抜いて最後の千羽織りを
織り上げました。
あれほど頼んでおいたのに、あれほど固く約束したのに、
与ひょう、あんたは見てしまった…


もう一緒にはいられない。 
布を織っている姿を見られたから
もう人間の姿で居ることは出来ない…
ずーっと、ずっと一緒に居たかったのに… 



おばさん、唄うてけれ、遊んでけれ! 

しかし、もうつうはいません。



あっ、鶴だ! 鶴が飛んでいく! 
子供たちの叫び声が…

彼方の空に鶴が飛んでいくのが見えます。
与ひょうは布を抱きしめながら立ちつくし、
惣どと運ずは、それぞれの思いで、鶴を見送ります。


つう! と与ひょうが叫びました。 

鶴は、一声鳴いて茜色に染まった夕空に消えていきました。





*木下順二の戯曲 「夕鶴」 から引用させていただいています

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